喪失
断脚手術をしたその晩は念のため入院し、翌日モモは退院しました。
彼女は病室から包帯を巻いて駆け出してきました。モモはこの時点で既に1か月以上、折れた脚を使わずにぴょん跳ね歩きをしていましたから、時々バランスを失ったような様子はありましたが、歩くことそのものにはあまり問題ありませんでした。
病院では終始おとなしかったそうですが、そこを一歩出たとたん、例の「包帯咬み切り術」に出ます。体液を外に出すための細い管が差してあり、そのために一部縫合していない場所があったので、なめないように早速ラッパをかぶせられてしまいました。誰がどこから見ても、重傷の犬を絵に描いたような有様です。
しかしショックだったのはその姿より、Tペットクリニックで再び病理検査に出すためにとっておいた、モモのその脚です。タッパのような入れ物の中で、薬液につけられたピンク色っぽい肉のかたまりがドンと存在しているのが、薄く透けて見えました。
モモを黒い風のように走らせてきた脚。モモに苦痛を与えた病をいつからか内包していた脚。既にモモのものではなくなったその脚に、私は複雑な愛情のようなものを感じて、別れがたくもありました。
こうしてモモの左後ろ足は、永遠になくなりました。