余命
前の病院のS先生が、どちらかの腎臓に異常が出始めたら、突然死の可能性があるから先に取ることを考えたほうがいい、という意見の持ち主なのに対して、T先生は、それは私の考えとは違いますね、という人でした。
それ以外の診断及び治療の基本方針は、S先生と変わりません。血管肉腫なら断脚後の平均余命は半年、と決定的な宣言をされてまたボロボロ泣く私に、T先生は、
「でも犬の1年は人間の5年くらいにあたりますから、1年生きたら5年生きたと考えることもできます」
とおっしゃいました。
私が転院を本当に決意したのはこのときです。
そういう考え方は、本来私そのものだったはず。苦しむモモを目の当たりにしておろおろし、治療にばかり考えが行っていましたが、QOLを大事にしようと、元気だったときはいつも思っていたはずです。
カナダのテレビで聞いた、末期の病気のゴールデンを飼う誰かの言葉も思い出されました。
「犬の前ではいつも幸せでいようと我々は決心したのです」
と、その人は言っていました。それだって私の考え方だったはずです。大事なのはモモの幸せであって、自分が後悔しないためだけにどんな治療でも甘んじて受けるほど、私は弱い人間ではなかったはずです。
翌日検査のために再度来ることを告げて、私は新しいかかりつけとなるSペットクリニックを後にし、帰国後やっと村の我が家へ辿り着きました。